EQ COLLEGEコラム⑦
物語×感情

皆さんは「物語」と聞いた時、“ストーリー”を想起するだろうか?“ドラマ”を想起するだろか?おそらく、好きな映画やTVドラマは、その筋立てよりも、あるシーンや登場人物のセリフあるいは流れる音楽によって生まれたドラマが心に残っているだろうし、ミュージカルが好きな人はある歌が耳に残っているはずだ。なぜなら、ストーリー(筋立て)よりもドラマの方が感情を動かすからだ。
実は、TVドラマや映画の脚本家が重視するのは、ストーリーよりも感情が息づくひとつひとつのシーンで生まれる人間のドラマになる。

また、物語はリアル過ぎても嘘くさくし過ぎても人間の感情は動かない。江戸時代の戯作者 近松門左衛門が提唱した「虚実皮膜(きょじつひまく)論」という考え方(法則)がある。 近松は「芸といふものは実と虚との皮膜(=薄皮)の間にあるもの也<中略>虚にして虚にあらず実にして実にあらずこの間に慰が有たもの也」という言葉を遺している。
嘘(フィクション)のようでいてそこに実(リアリティ)があり、本当のようでそこに若干のフィクションが混ざるものに、我々の心は動く。大谷翔平選手は、「まるで漫画の世界から出て来たようだ。しかし、大谷選手が漫画の主人公になっても面白くない」と言われる。正に、実在する人物なのに嘘のような活躍をするから人々は興奮するのだろう。
そして、デジタルの時代が訪れたことで「リアルとバーチャル」の境目は曖昧となり、虚実皮膜論が再び注目されている。

デジタルネイティブ世代にとって、もはやリアルとバーチャルの境目(皮膜)は無いのかもしれないし、バーチャルがリアルかもしれない。
さて今、虚実皮膜論を最も活用している現代の戯作者と言えば、再選を果たしたトランプ米国大統領だろう。嘘のような発言で人々の心をかき乱しリアルな取引(deal)に持ち込み、SNSを駆使してフェイクニュースを拡散しリアルな状況を混乱させる。
トランプは、この手法を自身がリングにも上がったプロレス団体 WWEやTVのリアリティショーから学んだことは有名だ。ちなみに、WWE創業者の妻は現トランプ政権の教育長官!という壮大な虚実皮膜。しかし、フィクションの世界では許されても、世界最大の国家のトップが虚実皮膜論を操るのはあまりにも危険だ。
世界中が不穏な虚実皮膜論に覆われようとしている。その時、我々一人ひとりが自分の感情の動きにきちんと向き合えば、その先に「フィクションとリアル」「リアルとバーチャル」を健全に往来する社会が生まれる。そう願いたい。
