EQ COLLEGEコラム⑧
多様性×感情

アメリカ大統領就任式での最も驚くべき光景は、トランプ大統領が「多様性プログラムの廃止」を宣言した時、満場の人々が立ち上がって熱狂的な拍手をしたことだった。多様性を最も代表して来た(はずの)国で。そして感じたことは「やはりアメリカ人も面倒くさい」と思っていたんだ、ということ。

そう、多様性(ダイバーシティ)は面倒くさい。

アタマ(理屈)ではわかっていても、ココロ(本音・感情)では面倒くさいと思っていた「パンドラの箱」は開き、マクドナルド、ウォルマート、グーグルなどが相次いでDEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みの撤廃や縮小に踏み切っている。

日本を代表する企業の経営者が語っていたエピソードを思い出す。その企業がグローバル化を進めた当初、ある会議で施策の方向性に誰もが賛成すると思った時、ひとりのフランス人社員が反対した。その瞬間「だから、ガイジンは面倒くさいんだよ」と、その経営者は思った。だが、彼(フランス人社員)は日本人社員が思いもつかなかったオプション(代替案)をいくつも提案した。

好むと好まざるとに関わらず、社会や職場に多様性は浸透し続けるだろう。

では、日本企業はどのように対応していくのだろう。いまだ日本では「ダイバーシティ=女性活躍」に留まり、しかも「2030年度に女性社員比率30%」「2030年度に女性管理職比率30%」という政府の数値目標達成が先行している感がある。だが、日本企業や社会における多様性を阻害する風土の根は深い。


「日本の企業は、同じ職場で、同じ仕事をして、同じ食事をして、同じ本を読む仲間がそのまま役員になる。従って、環境変化に際して、幅広い選択肢から意思決定ができにくい。これが、ダイバーシティを必要とする本質」

これは、出口治明さん(ライフネット生命創業者、前立命館アジア太平洋大学学長)の言葉だ。

フランス人からの提案を聞いた件(くだん)の企業の経営者は、自分に身についてしまった単一的な思考に気付かされたそうだ。

面倒くさい“外的”多様性の浸透を経験した先に生まれるのは、“内なる”多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)つまり、自分の中の多様な価値観だ。そのためには、外的な状況から生まれる負の感情に振り回されることなく、正しく制御するスキルが必要となる。

では、どのようにすればイントラパーソナル・ダイバーシティを生み出すことができるのか。
次回をお楽しみに。

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ジャパンラーニング執行役員 キャリアコーチ教育担当 酒井 章
1984年、電通入社。 クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社(シンガポール)赴任時にアジアネットワークの企業内大学を設立。 帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアムを立ち上げる。 2019年4月に独立し、(株)クリエイティブ・ジャーニー設立。アルムナイ研究所をはじめ、さまざまな“越境”の取り組みに携わっている。
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