EQ COLLEGEコラム24
食×感情
人は何のために食べるのだろうか。もちろん、生きるためだ。だが、それだけではない。
食べることと感情は、深く結びついている。人は嬉しい時も悲しい時も食べる。食べながら、知らず知らずの間に自分の感情に向き合っているのかもしれない。
私が好きなのは、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のあるシーンだ。住んでいた日常とは別の世界に迷い込み“千尋”という名前を奪われた主人公が、ひと息ついた時に与えられた握り飯を口に入れた瞬間、涙がポロポロとこぼれて来る。食には緊張した感情を癒す効果があるのだ。
誰かと食事をする時、そこには感情の交流つまりコミュニケーションが生まれる。
会議の場で初対面の人と出会う時には緊張感が伴うが、食が介在すると一気に距離が縮まる(ただし、美味しいことが条件だが)。生まれる感情が喜びや嬉しさといったポジティブなものであっても悲しさのようなネガティブなものであっても、食によって人間は人間らしさを取り戻す。
みんなで(大勢で)食事をする時、そこにはコミュニティが生まれる。
自然環境をテーマとするデンマークの現代アーティスト オラファー・エリアソンは科学者と共に空間認知の研究所を設立・運営しているが、多様な領域、多様な国籍のメンバーのつながりをつくるコミュニティ・ハブとなっているのが「スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン」。そこでは、ベジタリアンレシピが振舞われ、食を愉しみながらアートとサイエンスが融合するアイデアが生み出されている。
私は、あるスペインバルが月に1回開催するイベントに参加させていただいている。
若手のシェフやパティシエが実験的な料理を振る舞い、客はカウンターに並べられたさまざまなお酒の中から料理に合うタイプをペアリングする。食を介して、初対面同士だった客同士の関係も、回を追うごとにどんどん深まっていく。客が、その場の心地よさを語って知人・友人を誘い、コミュニティがどんどん広がっていく。
マネーが支配する経済の世界はパイを奪い合う「ゼロサムゲーム」だが、食が介在するコミュニティは、温かい感情と関係を共に広げる「ノン・ゼロサムゲーム」がルールになる。
食は、人間の感情の根源なのだ。
