どんな顔で、今日を生きるか
「いい顔をして野球をしよう」。
今年の夏の甲子園に初出場した八王子実践高校を率いる河本ロバート監督が、選手たちに伝え続けている言葉だ。
ロバート監督はかつてプロ野球選手を目指し、アメリカのマイナーリーグで投手としてプレーしていた。最速157キロを投げる選手として期待されていたが、あるとき突然、思うように投げられなくなった。
16球連続でボールを投げ、4者連続四球。やがて戦力外通告を受ける。
「どれだけ頑張っても、うまくいかないことはあるんだ」
その挫折が、指導者としての原点になった。自分と同じように苦しむ選手を支えたい。そう考えて生まれたのが、「いい顔をして野球をしよう」という信条だった。
「いい顔」は、自分自身を変える
「いい顔」とは、いつも笑顔でいることではない。
ミスをしても下を向かず、苦しいときも顔を上げる。仲間に声をかけ、「次に何ができるか」を考える姿勢だ。
表情は心とつながっている。
下を向けば気持ちは沈み、顔を上げて前を向けば、少しずつ気持ちも前向きになる。
「いい顔をする」とは、周囲によく見せるためではない。自分を前向きにし、もう一歩踏み出すための行動なのだ。
「いい顔」は周囲を変える
表情や態度は、自分だけのものではない。
八王子実践では、ミスをした選手を責めず、「よく頑張った」と声をかける。アウトを取ればベンチでハイタッチをし、苦しい場面では互いに励まし合う。
こうした「いい顔」の連鎖が、チームの空気をつくっていく。一人が前を向けば周囲も前を向きやすくなり、仲間を励ませば、励まされた人も力を取り戻す。
反対に、不機嫌な表情や諦めた態度も周囲に伝わる。
自分の表情や言葉、態度は、周囲の気持ちや行動に影響を与える。
選手宣誓に込められた思い
この言葉は、甲子園の開会式にも受け継がれた。
話題になった、八王子実践の矢沢陵磨主将の選手宣誓がこちらだ。
今、野球ができることは決して当たり前ではありません。だからこそ、高校球児はいい顔をして、野球をしよう。いい顔の概念は状況によって変わります。戦いに身を投じている時の、緊張した顔。勝負に敗れ、涙をグッとこらえる顔。感謝の気持ちにあふれた満面の笑顔。いい顔で日々を過ごすことは、周りの方々に元気や希望を与えます。
監督の言葉が、選手自身の言葉になったのである。
迎えた初戦、八王子実践は延長十回タイブレークの末に敗れた。それでも九回二死から同点に追いつく粘りを見せた。
試合後、ロバート監督は涙を浮かべながら、
「最後の最後まで、みんな、いい顔していた」
と語った。
勝ったから「いい顔」だったのではない。思い通りの結果にならなくても、最後まで前を向き、仲間と戦い抜いた。その姿こそが、「いい顔」だったのだ。
私たちも「いい顔」を選べる
仕事でも人生でも、思い通りにならないことはある。失敗や、努力が結果につながらないこともある。
そんなとき、無理に前向きになる必要はない。悔しければ悔しくていい。不安なら不安でもいい。
それでも、どんな表情や姿勢で次の一歩を踏み出すかは、自分で選べる。
顔を上げれば、誰かも前を向くかもしれない。声をかければ、誰かがもう一度挑戦できるかもしれない。仲間を信じれば、そこに安心感が生まれる。
うまくいかないときこそ、顔を上げ、仲間に声をかけ、もう一歩踏み出す。
自分の「いい顔」が、自分を変え、周囲を変えていく。
今日、あなたはどんな顔を選ぶだろうか。

