EQ×AIで実現するEXの未来 イベントレポート
― 感情・テクノロジー・組織の新しい関係を探る ―

はじめに

ジャパンラーニング株式会社主催のセミナー「EQ×AIで実現するEXの未来」が開催されました。
本イベントでは、近年企業経営において重要性が高まっているEX(Employee Experience:従業員体験)をテーマに、EQ(感情知能)・感情労働・AI技術の観点から、これからの組織と働き方のあり方について議論が行われました

近年、EXが注目される背景には、人材流動性の高まりによる人材確保の難化、個人の価値観の多様化、デジタル技術の進化による働き方の変化、顧客体験(CX)向上のための従業員体験の重要性といった社会的変化があります。こうした変化の中で、人の感情や心理を理解するEQの役割と、AI技術の進展がもたらす新しい可能性について、多角的な視点から考察する場となりました。

当日の講演の様子は以下の動画でもご覧いただけます。
▼ セミナーの様子はこちら(YouTube動画)

 

 

東京成徳大学准教授の関谷大輝先生は、社会学・心理学の視点から感情労働(Emotional Labor)について講演されました。感情労働とは、社会学者アーリー・ホックシールドが提唱した概念で、「仕事の役割として、自分の感情をコントロールしながら他者に対応する労働」を指します。サービス業や接客業だけでなく、営業、教育、医療など、多くの職業がこの感情労働の要素を含んでいるといわれています。講演では、感情労働の代表的な概念として表層演技と深層演技が紹介されました。表層演技は、表情や態度など外面的な部分をコントロールするもので、たとえば内心は不満を感じていても笑顔で接客するような対応が該当します。一方、深層演技は、相手の立場に共感するなど内面的な感情そのものを仕事に合わせて調整する働き方を指します。



また近年は「感情資本主義」という概念も注目されています。これは感情が市場価値を持ち、共感力やコミュニケーション能力が社会的な競争力となるという変化を示すものです。さらにAIの進化により、感情労働の構造自体が変化しつつあることも指摘されました。AIは怒ることも疲れることもなく、常に共感的な応答を行うことができるため、AIが人間以上に感情労働をうまくこなす可能性も議論されています。その結果として「人間がEQを鍛える意味は何か」という根本的な問いが、これからの社会で重要になってくると問題提起されました。

AI時代におけるEQと価値創造

続いて、IT企業でAIプロジェクトをリードする天野氏が登壇し、実務の視点からAIとEQの関係について講演を行いました。天野氏は、自身のキャリアやビジネス経験を踏まえながら、人が本来の力を発揮する組織とは何か、そしてAI時代に人間が担うべき役割とは何かについて語りました。講演ではまず、心理的安全性と傾聴の重要性が強調されました。社員一人ひとりが本来の力を発揮するためには、自分の意見を安心して話せる環境と、否定されず受け止めてもらえる関係性が不可欠であると述べました。また企業活動の目的についても、人を手段にするのではなく人の幸せを目的とする組織が結果として成果を生むという考え方が提示されました。


AI時代の仕事について、天野氏はAIが奪うのは仕事ではなく作業であると指摘します。人間が担うべき領域は、価値の創造、人の感情を動かす体験の設計、ビジョンを描き続ける力、人を信じ愛し関係性を築く力にあると説明しました。


さらに、人間にしかできない能力として感性、身体性、美意識の重要性にも触れ、AIが高度化するほど自然や芸術に触れ感覚を磨くことが重要になるというメッセージが示されました。

AIと人間の関係をめぐるパネルディスカッション

基調講演の後には、登壇者によるパネルディスカッションが行われ、AI時代における人間の役割について活発な議論が交わされました。

本イベントを通じて浮かび上がったのは、AI時代における人間の価値とは何かという問いでした。

AIは今後、情報処理、分析、作業、表面的なコミュニケーションなど多くの領域を担うようになると考えられます。しかしその一方で、人間にしかできない領域も改めて浮き彫りになりました。

それは人を信じること、愛すること、ビジョンを描き続けること、人の心を震わせる体験を生み出すことといった人間の本質的な能力です。

EX(従業員体験)を高めるためにも、AIと人間を対立させるのではなく、AIを活かしながら人間の感性やEQを発揮する組織づくりがこれからの企業に求められているといえるでしょう。今回のセミナーは、テクノロジーと感情が共存する未来の組織像を考える貴重な機会となりました。

 

登壇者プロフィール

関谷 大輝(東京成徳大学 准教授)
1977年、埼玉県生まれ。大学卒業後に福祉職公務員として就職し、福祉事務所および児童相談所において、対人支援に関わる最前線のケースワーカーとして勤務。公務員としての仕事の傍ら、社会人大学院である筑波大学大学院修士課程教育研究科カウンセリング専攻、同大学院人間総合科学研究科生涯発達科学専攻博士後期課程を修了。博士(カウンセリング科学)。2013年より、東京成徳大学応用心理学部准教授。社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、1級キャリアコンサルティング技能士。専門は、産業心理学、感情心理学、観光心理学。温泉ソムリエマスターとして、温泉心理学的な研究にも取り組んでいる。

天野 敦之(大手IT企業・公認会計士)
大手IT企業にてエコシステム共創本部 金融・新規共創担当
一橋大学商学部経営学科卒業。公認会計士。信州安曇野在住。
アクセンチュア、野村證券を経て起業し、事業創造、事業再生、起業支援、経営顧問、瞑想覚醒指導、等に従事。
現在は、個人の仕事やシンガーソングライター/アーティストである妻の葦木啓夏のサポートを続けつつ、日本IBMにてAIなど先端テクノロジーを用いた社会変革ビジネス推進をリード。
著書は日本で一番売れている会計入門書40万部ロングセラー『会計のことが面白いほどわかる本』(中経出版)や、『君を幸せにする会社』(日本実業出版社)等計9冊、翻訳を含めると21冊、累計50万部超。

加来 司(ジャパンラーニング)
豊田通商株式会社入社、トヨタ自動車向けアカウントセールスや新規事業開発を担当。自身の部下やグループメンバーの退職を受けてEQに関心を持ち、2022年にジャパンラーニング入社。サービス開発責任者として、EQや感情活用の新たな可能性を模索中。

酒井 章(ジャパンラーニング)
1984年、電通入社。クリエイティブ部門(コピーライター)、営業部門を経て、2004年からアジア統括会社(シンガポール)赴任時にアジアネットワークの企業内大学を設立。帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアム(LifeWorkS project Shiodome)を立ち上げる。2019年4月に独立し、クリエイティブ・ジャーニー設立。国家資格キャリアコンサルタント・アルムナイ研究所所長、ジャパンラーニング株式会社執行役員、武蔵野美術大学造形構想研究科 修士課程(クリエイティブ・リーダーシップ)修了、京都芸術大学芸術研究科(超域ラボ)修士課程修了

 

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