シリーズ「実践者」に聞く⑤ 「素直になる」それがEQを高める早道-株式会社ハイエレコン

会社や組織でどのようにEQが導入・活用されているのか。その実践事例をご紹介する本連載。第5回は、お客様の課題解決を目指し、企業・官公庁の業務支援システムの開発やネットワーク基盤の構築など、ITサービス事業を展開する株式会社ハイエレコンの取り組みです。2020年から開始した働き方改革の中で、EQが活用されています。インタビューさせて頂いたのは改革を推進されてきた井上雅雄さん。早期にリスクを察知し、組織の力を高めるEQの力について、お話しくださいました。
話し手のご紹介

 株式会社ハイエレコン
 常務取締役 井上 雅雄(いのうえ まさお)さん
Q:まず、井上様のご経歴と現在の仕事についてお話し頂けますか?
井上:もともと新卒でNTTに入社し、53歳まで働いていました。NTTでのキャリアの後半は法人営業が中心でしたが、役職定年になったのを機にハイエレコンに入社させて頂きました。現在は、事業計画や戦略の策定、各事業部の支援などを行っています。

Q:御社の人材育成として、どのような取り組みをされていますか?
井上:体系としては、キャリアアップしていくための研修に加えて、専門知識を習得するためのプログラムがあります。例えば、営業であればソリューション提案を行う上でのスキルを身に付けるプログラム、システムエンジニアの場合はプロジェクトマネジメント力を身に付けるプログラムといったように職種別に体系化しています。しかし、現在の売り上げを2030年に倍増させることを目指しているので、それを達成するためにはもっともっと充実させなければいけない、と思っています。
弊社の売り上げは、SEの数に比例しています。しかし、少子高齢化となっていく中で売り上げの増加のために社員数を増やすことは難しく、一人ひとりのスキルを向上させ生産性を上げていく必要があります。ジャパンラーニングさんに研修して頂いているような、ビジネスパートナーと共にお客様の課題解決に向けた付加価値のある提案やプロジェクトマネジメントができるプロジェクトリーダーの数を増やしていくことが、今後ますます必要です。またパッケージ系のソフトをどんどん開発し、手離れよく売って稼ぐことも行っていきたいと思っています。
ただ、これまでも専門知識を習得するための研修は受講してもらいましたが、テクニック偏重でプロジェクトリーダーがなかなか増えないという状況に陥っていたことに加え、大型開発案件では赤字プロジェクトとなるものも発生していました。これは何故なのか色々と社長とも議論したころ、ヒューマンスキル(人間力)を高めていく必要があるのではないかという仮説を立てたわけです。もっとリーダーとしてメンバーを引っ張っていったり、お客さまときちんとコミュニケーションを取って言うべきことは言うためには、ヒューマンスキル(人間力)を高める研修を広めて行く必要があると考えるようになりました。

Q:井上さんからご覧になって「望ましいプロジェクトリーダー像」とは、どのようなものですか?
井上:まずグループを束ねることができ、チームを同じ方向に向かってベクトル合わせをするためのコミュニケーション力があり、信頼関係の構築の元、プロジェクトを実行していける人。また日頃からリスク管理をしっかり行い、それを回避するための行動をタイムリーに起こせる人です。

Q:御社は若手を中心としたチームでプロジェクトを推進されているのが素晴らしいと感じました。
井上:昨年、弊社は創立40年を迎えたのですが、世代交代が必要な状況です。創立したときにかなり大量の採用をしたわけですが、今その世代の退職の波が押し寄せてきています。ですので、若手が引っ張っていかなければいけません。しかし、先輩たちが長くリードされていたこともあり、指示待ち的になってしまっている傾向が強い面があります。
若い世代が自分たちで考えて行動して会社を動かす。それを目指していかないと、会社自体も存続が危ぶまれる・・という想いから、若手をターゲットにした研修にも今、力を入れています。

Q:2020年から、働き方改革の取り組みをされていますね。評価項目評価基準を再設計されたり、次世代リーダー育成研修をされたり、入社3年社員フォローアップ研修されたりしています。この改革を始められたきっかけはどのようなものだったんでしょうか?
井上:一番の根底にあるのは、離職者が非常に多かったということです。私が入社した4年半前は採用社員数よりも離職者数が多い状態でした。このままだとどんどん人が減っていくばっかりじゃないか、という危機感から取り組みを始めました。
どういったところに問題があるのか。それを把握するために、全社員アンケートを実施しました。その結果をもとに、できるところからやっていくこととしました。

Q:どのようなことをされたのですか?
井上:まずは単純なことから実施しました。例えば、昼休憩の時間は当初50分だったんですが、これを1時間にしました。また、有給休暇を時間単位で取得可能にもしました。
しかし、大多数の意見は評価に対するものでした。そういったところにもメスを入れないといけないと思い、少し時間を要しましたが、検討にはコンサル会社を入れて見直しました。内容としては、「結果のみの評価」から「プロセス」も評価の中に組み込みました。日頃どのような行動をして結果に繋がっているのかも評価に加えるようにしたわけです。
特に何もしていないのに、たまたま運よく結果が出た人もいれば、日頃からしっかり活動していても結果に惜しくも繋がらなかったという人もいると思いますが、これまでは全て結果だけを評価していた訳です。でも、どのようなプロセスで結果が生まれたのかを考えないと評価のしようもないので、プロセスをしっかり評価の中に入れていくように切り替えました。これは社員の意見に基づいてのものです。

Q:最近のキーワードとして「人的資本経営」が広がっていますが。
井上:先ほど申し上げたヒューマンスキルを高めていこう、という意識はまさにそこ(人を大切な資本と考える)から来ています。弊社は「人材育成」ではなく「人財育成」という言葉を使っており、私も会社の中で「人を道具として扱わない。皆さんは会社の財産であり、一人一人の力が揃ってこそ初めて大きな力を発揮する」という話をします。そういったことを意識しながら「社員には平等に育成投資をする」という点を意識しています。



Q:さて、EQの話に入っていきますが、EQを導入された背景についてお話し頂けますでしょうか?
井上:3年前に、あるご縁から加来社長とお目にかかった際に、先ほど申し上げた世代交代が進む中で次のマネジメント(リーダー)候補となる人材が育っていないということを申し上げ、マネジメント研修をやって頂くことになりました。
対象は20名弱の課長を対象に行ったのですが、その研修の中に、部下とのコミュニケーションツールとしてEQが組み込まれており、部下だけではなく、研修を受講した課長達自身の能力開発手法の一つとしても認識したことが、EQを導入したきっかけです。

Q:初めてEQというものに出会われて、どのように感じられましたか?
井上:社員に対して「心を通じ合うようなこと」をやってこそ仕事を一緒にできると思っています。そういうことを何も気にしないマネージャーをこれまで沢山見て来ましたが、それでは駄目だと常々感じていました。
では、どのような手法が良いのか・・と考えた時に、EQはヒューマンスキルを高める部分で非常に効果的なツールだと感じました。自分や部下を第三者の目で客観的に表してくれますので、自分や相手を知り、いい方向に持って行くためには有効だと感じました。

Q:ご自身でも受検されて、いかがでしたか?
井上:自分で見えていた部分と、自分では見えていなかった部分の両面があることに気づかされました。自分ではそう思っていないのに、なぜこうなるんだろう、と。
現在も年に2回受検していますが、自分では自信のあるところなのに、なぜ低く出るのか謎の部分があり・・奥が深いな、と感じています。受験時の感情が大きく現れるので、それを冷静に振り返り、高めるべきことを意識していくことでEQを開発することは可能だと思いますし、人格そのものは変えられませんが、ヒューマンスキルは誰にでも開発することができるとも思います。それを人に言うだけではなくて、自分自身もちゃんと見つめ直して行く必要があると思っています。 意外と自分では気づいていないところに気づかされたり、なるほど言われてみればそうかもしれないなと思わせられたり、克服するにはどうしたらいいんだと考えさせられたり。さまざまな意味で、素晴らしいツールだと思います。

Q:具体的にはどのようなことを意識されたんでしょうか?
井上:27の行動特性の中の「内的自己意識」が、他と比べてすごく低かったんです。なぜそうなってしまっているのか、ジャパンラーニングさんのEQサイトから動画のアドバイスから、自分が1日何をしたか、人とどういう接し方をしていたのかの意識が薄いことがわかりました。ですので、業務を終えて帰宅の途中、入浴中、就寝前等に、1日を振り返ることを意識的にやってみました。その結果、明日からこうしようとか、もっとこんなふうにしないといけない、といった気づきが生まれ、社員への対応も変わったと思います。勿論その結果として「内的自己意識」も平均以上の数値に上がりました。

Q:EQを導入された効果はいかがですか?
井上:先ほど申し上げたように、弊社の場合は指示待ちのような傾向が多くて、以前は27の行動特性の一つ「ビジョン」がものすごく低かったんです。それが、コロナ禍が追い風にもなって改善されたところがあります。
例えば、これまでは事業計画の説明は、社長から部長へ、部長から課長へ、課長から社員へという具合に段階を踏んで説明していました。しかし、コロナ禍になってからオンライン会議(Zoom)を使って、全社員に対して社長をはじめとする経営幹部が想いを直接伝える手法に変えました。業務都合上、聞けない人には録画をして後で見てもらいました。すると、全社のEQスコアの「ビジョン」の平均が伸びてきています。

Q:素晴らしいですね!
井上:特に客先に常駐して仕事をやっているために自社への帰属意識が薄れている社員も結構いました。そういった部署のメンバーの意識も変わってくれたと思っていますし、社員同士のコミュニケーションも増えてきていることを実感しています。

Q:部署間の交流も生まれていると聞きました。
井上:はい。社員には「私は営業だから」「私はシステムだから」と閉じずに部署をまたいで仕事を進める意識をもってもらう必要があります。ジャパンラーニングさんにコンサルティング力強化研修などをやっていただいて「営業だシステムだと言っている時代じゃない」というメッセージも理解してもらいつつあるように思います。 その結果、部門間や拠点間をまたいで一緒にやっていく行動が生まれており、どんどん活発になることで新しいものが生み出されることを期待しています。

Q:EQの結果から、社員の仕事関係や人間関係の変化をキャッチできて、早めの対応も可能となったと聞きました。
井上:全社員に対してEQを行い始めて2年経ちますが、上長がEQ結果に基づいて面談を実施してもらっています。例えば私の場合、ストレス耐性が低くなっている社員と一対一の面談の場を持たせてもらったのですが、その社員のEQ受験時の状況・環境を振り返り、何から影響を受けていたのかをお互いがある程度特定することが出来ました。
また、元々ネガティブな考え方であるということも話してくれたので「物事をポジティブに考えるように心掛けて欲しい」という話もしました。すると、その次のEQ受検結果ではストレス耐性に問題はなくなっていましたので、EQ結果を事前にキャッチできてよかったな、と思いますね。

今後、御社の中でEQを更に活用されていかれる展望はありますでしょうか?
井上:ジャパンラーニングさんがお持ちの40万人近いデータを活用して、もっと早く危険な兆候を発見したり、どういう傾向にある社員がどういう仕事に向いているのかといったマッチングにも活用できればとも思っています。それがビジネスの成果にも繋がるかもしれないですし、ジャパンラーニングさんと一緒に何かできれば、と思っています。
一方で、EQに対して「こういうことやってもあまり意味がないんじゃないか」と思っている社員も一定ボリュームいますので、その対策もする必要があります。EQが高まることによってどれだけ会社の事業に貢献できているのかを社員に見せて、もっと提案力を上げていった方がいい、ということを理解してもらう必要がありますし、それを通じて組織力を高めていきたいと思います。

改めて井上さんにとって、「感情に向き合って理解を高める」ことの意味はどのようなものだと思われますか?
井上:何と言っても「素直になる」ということですね。(EQは)自分が客観的に評価されているものだと思います。客観的に出てきたものは、全て自分の感情から表れている正直なものなので、それをいかに素直に自分に受け容れて高めるために意識を変えるか、行動を変えるかが大事だと思います。

井上さんは、ゴルフがお上手だとお聞きしましたが、ゴルフとEQの相関関係などあると思われますか?
井上:ゴルフの腕前は置いといて、やはり「前向きに捉える」ということですね。感情に走らず、今起きていることをどう受け止めるのか、受け止めようとするとどうしたら良いのか、という感情のコントロールをいかに行うか。これに関しては、ゴルフをやっていた時のエピソードをお話します。私がティーショットを打とうとしたら、カラスがカーカー鳴き出して「うるさいなこいつ」と思ったのですが、一緒にラウンドをしている方たちを待たせるわけにもいきませんので、もう気分がぐちゃぐちゃな状態でティーショットを打ちました。すると見事に力んでOBになってしまったんです。次の人の順番になってもカラスが鳴き止まない状態だったので、「この人も大変だろうな、同じ結果になるんだろうな」と思っていたら、彼は見事にフェアウェイど真ん中に打ったんですよ。そういえば、カラスに向かって手を上げる仕草をしていたので「何をやっていたの?」と後で聞いたら「(カラスに対して)ありがとう。応援してもらって」と言ったらしいんです。

面白いですね!
井上:2人に起きている状況は全く同じなのですが、受け止め方が真反対だったわけです。 私は完全にネガティブに受け止め、もう一人の人は応援してもらっているとポジテイブに受け止めていた。彼の感情のコントロールの仕方ってすごいな、と思わせられました。その経験から、感情にマイナスな要素が入り込んできても自分でどうコントロールしてポジティブに考えていくかを自分なりにやってきたことで、心の持ち方も変わって来たと思います。
ネガティブな感情の克服の仕方を考えて行動してみるとすごく勉強になりますし、それが行動を意識して変えていく、ということだと思います。ですので、まだまだ伸びる領域はあると思います。

ありがとうございます。今お話をされながらご自分で感じられたことなどありましたら、お願い致します。
井上:こういう場で言語化することで、自分を振り返ることができて、今の会社でも色々なことを推進していかなくてはならないと、改めて認識できました。私自身もっとEQのスキルを高めることや、組織力を高めることに向けて気持ちを新たにできました。ありがとうございました。

Avatar photo
EQカレッジ運営事務局
EQカレッジの運営事務局になります。お気づきの点やお問合せなど、お気軽にお問合せフォームよりご連絡ください。
EQオープン講習コース
お申し込みはこちら EQオープン講習コース