シリーズ「実践者」に聞く⑥  自分は「探す」ものではなく「磨く」もの。 だからEQの力が必要になる。-高砂熱学工業株式会社

自分は探すものではなく
会社や組織でどのようにEQが導入・活用されているのか。その実践事例をご紹介する本連載。第6回は、今年100周年を迎え、「空調」という言葉を日本に広めた空調設備のリーディングカンパニー高砂熱学工業でタカサゴ・アカデミー長をされている村上誠さんにインタビューをさせて頂きました。社員に気づきや学びの機会を提供することを企業風土にしたい、という想いと共に「自分磨き」をする上で大きな効果を発揮するEQについて熱く語ってくださいました。
話し手のご紹介

 高砂熱学工業株式会社 人事戦略統括部 人事部
 タカサゴ・アカデミー長 村上 誠(むらかみ まこと)さん
Q:まず御社に入社された動機からお話し頂けますか?
村上:大学は工学部で環境工学を学び都市について研究をしていたのですが、設計よりも物事を具現化させる仕事をやってみたいと思い、特に地域冷暖房というものに興味を持ちました。また、私は「鶏口牛後」という言葉が好きです。何十万という社員のいる大企業ではなく、お互いの顔と名前が見えて、頑張れば頑張るだけ誰かに見てもらえるという期待感を持つことができるような2,000人規模の当社が自分の価値観と合致しました。

Q:入社以来のご経歴はどのようなものですか?
村上:入社してすぐに、大阪の施工管理の現場で希望していた地域冷暖房の仕事に就くことができました。その後、ドーム球場の施工をさせて頂いたことをきっかけにランドマークとなりうるような大規模施設の経験をさせてもらいました。技術力が一番ついたのは、歴史ある総合病院の建設プロジェクトに約7年間取り組んだことです。その土地にこだわったところがあったので、旧建物を壊し患者様に引っ越ししてもらいながら新しい建物を建てていくという形で、手順が非常に大事だったことと、運営に影響が出ないように工事を進めるという難易度の高い業務でした。その後、自分としては「青天の霹靂」だったのですが、本社の経営企画に異動しました。その3年後に、技術提携をしているプラント会社に2年間出向し、本社に戻り人事部のタカサゴ・アカデミーで会社全体の社員の能力開発を担当することになり、現在に至っています。

Q:キャリアの中で、特に思い出に残っている仕事をお聞かせ頂けますか?
村上:ひとつは、1人で大空間の空調責任者を務めたドーム球場の仕事です。実は、仕事を辞めたいと思うほどハードな経験でしたが、その経験があったからこそそれを乗り越えることの大切さを学びました。もうひとつは、市民から建設反対の裁判を起こされていた地方空港のプロジェクトです。それまでは「高砂さんありがとう、村上さんありがとう」と言われる喜びを経験して来たのですが、初めて建設反対という状況に直面しました。
しかし、裁判を無事終えて、第1便が飛んだ時に、空港の屋上で市民の皆さんから、わーっと拍手が上がったんです。ある上司から教わった「竣工の麻薬」という言葉があります。利害関係のある会社さんと一緒にプロジェクトを進める中での施工中の様々な苦労が、最後竣工したときはすべて忘れてしまいます。

Q:そのような経験を経て現在、携わっていらっしゃる「タカサゴ・アカデミー」は、どのような目的で設立されたんでしょうか?
村上:私が経営企画に居た時に、各支店から、新入社員をはじめとする社員教育は技術本部の方でやってもらいたいという意見がありました。それを受けて、技術本部にテクニカル・アカデミーという組織をつくったことが最初のきっかけです。その後、人事が担当する能力開発やマネジメント教育にテクニカル・アカデミーが統合されて、現在のタカサゴ・アカデミーとして改めて発足しました。

Q:具体的にはどのような取り組みをされていますか?
村上:研修は職種別、階層別、目的別にわかれています。職種別は、新入社員からある程度基礎的な技術力をつけるためのカリキュラムに沿って、社員が講師を務めています。入社5年目以降の社員向けには、より専門的な知識をつけてもらうプログラムを提供しています。 階層別は、いわゆるマネジメント教育のようなものでジャパンラーニングさんを始めとする外部講師を招いて行っています。 また目的別としては、これもジャパンラーニングさんにお世話になっているワーキングマザー研修のように、多様な社員が働きながら学ぶことができる機会を提供しています。「勉強」というと誰かに強いられるようなニュアンスですが、「学び」は、自分から進んで取り組むものだと思っています。社員の皆さんに気づきや学びの機会を提供することが、弊社の企業風土だと考えています。

Q:その「企業風土」について、少し詳しく教えて頂けますか?
村上:今の会長が社長就任して間もなく当時の会長が急逝したという経験をしまして、経営とはなんぞやということや高砂の経営哲学についてあまり学ぶことができずに、1人で苦労して学んだそうです。社員にその苦労をさせたくないという想いから、技術屋さんが苦手な、財務や会計といった経営者になる上で必要な知識を得るプログラムが必要であるという想いがあり、現在のアカデミーの取り組みにつながりましたし、私自身も、社員の皆さんに気づきや学びの機会を提供することを「企業風土」にしなければいけない、という想いを持っています。

Q:「エルダー」という制度についてお聞かせ頂けますか?
村上:何歳か上の兄貴分・姉貴分になるような社員が同じ職場の若手社員1人について世話役になり、日々の仕事を教えるだけではなくて、なかなかプライベートで言えないような悩みなどを積極的に汲み取るようにしています。今後はメンターも必要だと思っています。各職場もしくは支店にいわゆる「人徳」のあるような、EQが高い方がいらっしゃって、技術的なことや悩みを聞いたり、指導したりして頂ければ良いな、と考えています。 また、これから増して行く社員の多様性を考えると、LGBTQなどの悩みにも応えるような体制も整えています。

Q:HRテックも活用されていらっしゃいますね。
村上:今までの人事は、人が見て人が判断する部分が多かったと思います。しかし、数年前にいくつかのセミナーを受講する中で「アンコンシャスバイアス」ということについて学び、偏見だらけの世の中だからこそ、バイアスをなくすようなフラットな人事をつくる必要性を感じ、HRテックの導入につながりました。好きとか嫌いとか、この人と一緒に仕事をしたことがあるからというような経験や価値観で2,000人いる社員を決め付けては駄目だということです。人事は、人の人生を決めることですから。例えば役職者の選抜をする時でも、数値化した方が、公平性が増すと思います。

Q:EQは、どのような経緯で御社に導入されたのでしょうか?
村上:大学の社会人勉強会の中で、ある方からジャパンラーニングさんのセミナーについてお聞きしたことがきっかけです。フラットな人事をつくる上で、検定ツールのようなものがあったらいいと考えていましたので、私自身が受検させて頂き本格的にやってみたいと思いました。また、ジャパンラーニングさんでこういうタイプの人はここが高いですとか、こういう人は実はこういう能力があるからこういう数値に収まっている、というような解説をしてくださるのが良いと思ったポイントです。

Q:ご自分で受検されて何か感じられましたか?
村上:私は、「身の丈」という言葉が好きなのですが、正に身の丈がわかって良いな、と思います。 もうちょっと頑張らないといけないかなとか、数値が高いからといって安堵するものでもない、といったことを自分なりに解析しています。

Q:どのような解析をされましたか?
村上:受検者の過去2,3年分の解析したデータを、社内の委員会で示したことがあるんです。もともと研究職は、金平糖のように「俺が俺が」と尖っているタイプが多い一方で、事務系の管理職はわりと丸いようなイメージがあったのですが、レーダーチャートの形をみるとそういった傾向が見える化されて面白いと感じました。あるいは、新任の課長がEQを受検して自分なりに成長と訓練をしたんでしょう。1.5倍ぐらいに能力のサイズが大きくなったような事例もあります。

Q:EQを導入されての効果や可能性は、どのようなものでしょうか?
村上:やはりバイアスが無くなる、ということですね。特に経営者の候補は優秀な方ばかりです。でも誰か1人を選ばなければならないとしたら、いわゆる「integrity(インテグリティ=誠実さ、真摯、高潔さ)」が大切だと思うんです。能力は特化していても構わないけど、物事に皆で取り組むということにおいて必要となるintegrityを判断する上で、EQは最適だと思います。 また、「自分探し」ではなく「自分磨き」をする上でも効果があると感じています。世の中の離職する原因のほとんどが「自分探し」ですが、せっかくご縁があって企業に入社したのであれば、自分を磨いて自分の居場所を作ることが必要だと思います。なので、ここをもうちょっと高い数字にしたいと自分で思ったら、そこを磨けばいいですし、EQのレーダーチャートの形は、1人1人が自分に与えられた形だと思っています。

Q:今、「人的資本経営」が広がりを見せていますが、御社でも何か取り組まれていますか?
村上:弊社には人的資本経営の素地は整っていると自負しています。ただ、それを対外的にするのは不得手というか・・・人に見せるのを美徳としない企業文化があるので、そこは改めないといけないと考えています。上場株式会社である以上、ステークホルダーのための会社なので、こういう努力をして、こういう人財を育てていますということは、株主様をはじめとする幅広いステークホルダーに対してきちんと開示しないといけませんよね。「技術の高砂」と言いますが、我々は製品を作っているわけではなく人しかいませんので、人的資本が大切なのは間違いありません。

Q:海外赴任者にもEQを導入されようとされていますね。
村上:EQというのはグローバルな指標でもあるので、海外の日本人スタッフやナショナルスタッフに対して行った実績があります。海外拠点は、どうしても日本から離れた距離にあって見えにくいので、見えやすくする上ですごく効果があると考えています。

Q:最後に。村上さんからご覧になって「感情に向き合って理解を高める」とは、どのようなことでしょうか。
村上:EQを始めとする学習の機会を通じて、自分の身の丈を知ったり、成長の度合いを客観的に知ったりすることが必要だと思いますし、そこで大切なのが自分の感情を知ることだと思います。「三つ子の魂100まで」ということわざがあるように、人格形成は子供の時に行われると言いますが、社会人になった後の「のびしろ」もあると思いますし、社会人になってから伸ばす上で、影響を与えてくれた方々、支えてきてくれた方々への感謝をすることが大事なのではないでしょうか。

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