シリーズ「実践者」に聞く⑦ 強みは歴史の長さではなく「先進力」全社員にEQを。-株式会社山久

会社や組織でどのようにEQが導入・活用されているのか。その実践事例をご紹介する本連載。第7回は昭和6年創業、滋賀県長浜市の機械商社、株式会社山久の平山正樹社長にインタビューをさせて頂きました。

■経営理念
山久は「人と地域に、安心という名の信頼」を企業理念に掲げています。
私たちが考える安心とは、
①健やかな家庭
②働きがいのある職場
③子どもたちの将来に希望が持てる社会
これらが揃って、初めて感じられるものです。
話し手のご紹介

 株式会社山久
 代表取締役 平山 正樹(ひらやま まさき)さん
Q:まず、平山社長のご経歴についてお聞かせいただけますか?
平山:1992年、立教大学経済学部を卒業後、機械商社の株式会社山善に入り、6年ぐらい勤務しました。1998年6月に地元に帰り、株式会社山久に入社しました。それから10年後の2008年に社長に就任したのですが、 就任後に受講したミツトヨビジネススクール経営者コースの講師が、加来社長だったというご縁で貴社とお付き合いが始まりました。

Q:その講習の印象はいかがでしたか?
平山:事前にEQを受検したメンバーが3人ずつ2チームに分かれてグループワークをしながら強み弱みをピックアップして、相互カウンセリングのようなことやりました。「これ面白いな」と思ったんです。それ以降、社員をミツトヨビジネススクールの管理者コースや営業コースに派遣してEQを受検してもらいました。


Q:その後、山久でEQを社員の皆さんに受検頂く流れになっていくんですね。
平山:全社員にEQ受けてもらいたいと思いました。加来社長にも滋賀に来てくださいとお願いしました。

Q:なぜ全員に受けさせたいと思われたのですか?
平山:EQは健康診断と同じで、営業だけ受けたら不公平、だから全員に受けてもらうのが当然という感覚でした。

Q:現在に至るまで、引き続きEQを様々なシーンで導入頂いていますが、どんなところにEQの魅力や意義を感じていらっしゃいますか?
平山:繰り返すようですが、要は「健康診断を受けるような感覚でEQを受ける」ということです。毎年、健康診断で社員全員の健康を診る。同じように数値化できるEQで心も診る。体だけ元気でも、心が不健康だとだめですよね。だから体と心の両方を定期的に診ることは普通だと思っています。


Q:社員の皆さんからEQに対する声はどのようなものですか?
平山:「EQは結構当たっている」という声をよく聞きますが、それは違うと思っています。健康診断でも、「血圧が高いよ。当たってる」と言うでしょうか?EQは「当たっている、当たっていない」ではなく、「自分の心の状態」を見るものだと思います。数値化されることで心の状態を見える化して、自分に対する客観的な発見があるんじゃないですか。

Q:営業成績、パフォーマンスとEQの相関という事例を取らせていただいたのが山久さんが初めてです。事業部単位で見て、実際にEQのスコアの変化が大きかった事業部の営業成績が上がっていたということですね。そのあたりのEQと業績パフォーマンスというところはどのように感じられますか。
平山:営業成績の場合は、お客様の業績や景気の状態といった外部要因や、どこの営業所に配属されるのかといった複雑な要因が絡んでいるので、一概には言えないです。ただ、EQによって自分自身の強みを知ることができるのは、間違いなく営業メンバーとしてプラスです。それを行動に移すことができてる人間は、色々な点で成果が出やすいですね。

Q: 御社では、社員の資格取得を積極的に支援されていますね?
平山:会社が指定する試験に受かったら手当を出す「資格手当制度」があります。最初は「空気圧技能検定」という資格から始まりました。そこからロジスティックや建設業の領域へ、今はDXソリューション領域へと広がっています。勝手にみんな資格を取っていきます。要は一人ひとりの向上心の問題です。

Q:育休中に資格を取った方がいらっしゃると聞いたのですが?
平山:育休中に勉強していたんです。すごいですよね。

Q:「くるみん」「プラチナくるみん」など、子育て支援についても会社として積極的に取り組まれていますが、社長の想いをお聞きしたいです。


【くるみんとは…】
「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた企業の証が「くるみんマーク」。
山久は2014年に第1回目の一般事業主行動計画の推進が評価され「くるみんマーク」認定を受け、2022年には高水準の取組みを実施しているとして「プラチナくるみん」認定が認められました。
山久HPより(yamakyu.co.jp)




平山:私が社長就任した時に、財務や労務を担当していた社員が産休に入ったわけですよ。 当時(15年前)は、いわゆる寿退社っていう言葉がまだ世の中にあって。でも、社長になったばかりで辞められると困るなと切実に感じたんです。女性は子供を産んだら職場に帰って来て欲しいけれど、当時はそんな仕組みがない。そこで、その社員に「育休を取ってトップランナーになって欲しい。後に続く女子社員が、結婚して子供を産んでも続けられるような会社にしよう」と言ったんです。その一環でくるみんマークを取りました。そこから、社員が育休を取得しても短時間勤務で復帰できるようになりました。

Q:会社としてやるべきこととして、やられているという感覚ですね。
平山:人口が減って少子化で、去年の出生者数が80万人を切って、高齢者は資産を持っている一方、若い人たちの賃金が上がらないような状況で社会保障が大問題になっている時に、中小企業が今までと同じことをやっていたら生き残ることは無理ですよね。

Q:90周年のロゴをつくられましたが、そこに込められた想いやお考えもお話し頂けますか?
平山:ブランディングを変えようと思った一番の理由は採用です。僕らバブル世代と比べて学生の数が半分になっている。その一方、企業の数は半分になっているわけではない。つまり、企業が学生を選ぶ時代じゃなくて、学生が企業を選ぶ時代なんです。だから、ちゃんと自社のブランディングしないといけない。

認知度を上げるために地方局にテレビCMをうったり、就活サイトWebやネーミングライツをやったり、多彩なチャンネルで取り組んでいます。今の学生は多様で一つの方法だけでいいという世代じゃないから。

さらに、うちは辞めないんですよね。新卒から3年以内の離職が全然ない。 いかに新卒をやめさせないか、が大事です。人材育成というよりも「人材投資」をしているわけです。せっかく採用しても辞められては今まで時間をかけて投資しても回収できない、となります。 給料も大事ですが、「くるみん」を始めとして働きやすい環境を作ったことで、社員は安心して続けられるのではないでしょうか。

Q:最後に山久のこれからの事業展開と、今後の社員の育成方法をお聞かせください。
平山:90周年を迎えたのは、2年前の2021年6月でした。コロナ禍で残念ながら周年行事とかイベントは見送ったんです。それから1年経って90周年とか言われても…となりますよね。だから、次の100周年に向けてどうありたいかを考えるMIRAIプロジェクトを始めたわけです。

その最初のテーマがブランディングです。ロゴマークを変えて、100周年に向けて何をやっていくのか? 山久の強みを見える化して、みんなで共有していきましょうと。これ、「EQの発想」ですよね。去年の7月、今期の最初の部門長会議で、グループワークをやりました。その時に、みんな「山久の強みは90年の歴史」って言うんですよ。でも、歴史が長いことが強みなのか? それなら若手は先輩社員には勝てないことになる。歴史ではなく「山久の伝統はなんだ」をみんなで話し合って、それを会社案内に見える化したんです。 山久の伝統は、自ら専門力を高めて時代を切り拓く先進力だと思っています。では「先進力」とは何か?それは、どんなことも他社に先駆けてやるってことです。要はよそより早くやる。これは、EQでも一番大事なところですよね。

これだけ環境が変化する中で、我が社も10年後どうなるかわからないけれど、人がいる限りモノ作りはなくならない。しかし、モノ作りの形は変わって行くと思っています。 但し、どれだけロボットやAIが出てきても、建設工事はできないし省エネ提案してくれないよ。そこが我々の生きる道だと考えて、エンジニアリングや環境ビジネスを強化しています。

後継者育成を目指して、今までの研修は商品知識や営業の研修中心だったのですが、AIで代替できる知識ではないところを鍛えるために、将来の幹部候補生、経営陣を育てる山久アカデミーを企画しました。そこは、経営者に必須の教養を皆で一緒に学ぶ場所です。「一隅を照らす、これ即ち国宝なり」比叡山延暦寺の開祖である伝教大師・最澄の言葉のように、育成できたら面白いんじゃないかと思っているんです。この空想を、100周年までに形にしていきます。

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