EQ COLLEGEコラム25
小泉八雲×感情
NHK朝ドラ「ばけばけ」が評判だ。
江戸時代から明治時代へと移行する100年前の物語だが、時代の曲がり角に直面した日本人の戸惑いを描いており、それが現代にも通じるメッセージを含んでいるからだろう。
ドラマは、「怪談」を書き世界に日本を紹介した小泉八雲の夫人(小泉セツ)を主人公としている。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、1850年にギリシャでイギリス人の父とギリシャ人の母のもとに生まれ、19歳の時に渡米。新聞記者となり、1884年の万国博覧会で日本に興味を持ち、1890年に松江の英語教師として日本にやって来た。
「怪談」と並ぶ彼の有名な著書「日本の面影」は、松江に居た1年半、つまり日本にやって来たばかりの鮮烈な印象を書き留めたものだ。
同書の中では、特に印象に残った出来事に「盆踊り」が取り上げられており、湧き上がって来た感情について、このように綴っている。
そもそも、人間の感情とは何であろうか。それは私にもわからないが、それが、私の人生よりもずっと古い何かであることは感じる。感情とは、どこかの場所や時を特定するものではなく、この宇宙の太陽の下で、生きとし生けるものの万物の喜びや哀しみに共振するものではないだろうか。
だが、その一方でこう述べてもいる。
日本国中から、昔ながらの安らぎと趣が消えてゆく運命(さだめ)のような気がする。
その八雲の予感は当たる。日本は急速に近代化していき、日清・日露戦争そして第二次世界大戦に突入。戦後の高度成長によって、さらに「昔ながらの安らぎと趣」は消えていった。それは日本だけに限らない。世界中が同様の状況だ。
このような反省を見直そうという動きを「再魔術化(re-enchantment)」と呼ぶ。合理的な科学や論だけでは説明できない側面を社会に取り戻し、豊かな精神性を獲得しようというものだ。
この潮流の中で大人気を呼んだのが「ハリー・ポッター」ということになる。
「ばけばけ」に魅きつけられるのは、潜在的に我々が“世界の再魔術化”を望んでいるからなのだ。
そのために欠かせないのが「万物の喜びや哀しみに共振する」豊かな感情を持つことなのだ。


