EQ COLLEGEコラム36
病気 × 感情

先だってカンヌ映画祭のコンペティション部門に選出され、主演女優二人が最優秀女優賞をダブル受賞したことで話題となった映画「急に具合が悪くなる」。原作は、がんに罹患しながら生き抜く哲学者と、臨床現場の経験が豊富な人類学者の往復書簡だ。

「急に具合が悪くなる」
宮野真生子/磯野真穂 著

そこで語られるのは、物事を合理的に原因と結果で判断しようとする現代の在り方への疑問だ。

私自身、2年前に急に具合が悪くなる経験をした。息切れがするので病院で調べてもらうと左胸側の横隔膜の下半分が収縮(麻痺)していたのだ。近所の総合病院の様々な科で調べてもらったが原因がわからない。結果、「横隔膜ヘルニア」という病名だけは判明したが、治癒の見込みは無いと言われた。

それでもあきらめ切れず、伝手(つて)をたどって呼吸器の名医と言われる方を紹介していただいた。初診察の日、その先生がおっしゃった言葉は忘れられない。

「医療で解決できる範囲は、まだ30%なんです。原因がわからないなら、治らないということも言いきれないじゃないですか。人間の体を信じましょう」

病気にかかった時の人の心の中に渦巻くのは、持っていきようのない感情だ。

がんを患った人の心の変化は

「否認(そんな馬鹿な)」
「怒り(なぜ、自分が)」
「取引(治癒するならどんなことでもする)」
「抑うつ(もうだめなんだろうか)」
「受容」

以上の5段階を経るという。がんに限らず、病気にかかると、大なり小なりこのような心の状態になるのではないだろうか。

しかし、総合病院の医師たちは、こうした感情や心理状態を理解しようとはせず、自分の専門範囲だけで分析的に診断しようとしていた。他方、呼吸器内科の先生は患者の感情や体の全体性に寄り添おうとしてくださった。

書籍「急に具合が悪くなる」には、このような一節がある。


私たちの世界を眺めてみると、いったい誰のせいなのかわからない不幸が、無理やり誰かのせいにされたり、自己責任にされたりする状況が度々みられます。

いま、混迷度を強める社会や世界全体が「急に具合が悪く」なったような状態なのかもしれない。そこでは、かつてのような「分ければわかる」分析的で合理的な姿勢で解決できないことがますます増えていくだろう。

人ひとりだけではなく、社会全体を身体と考えて、そこに流れる感情を理解する必要性が高まっている、と言えそうだ。 ちなみに私の横隔膜はある吸気リハビリで回復し、先生から「珍しい症例」と言われている。


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ジャパンラーニング執行役員 キャリアコーチ教育担当 酒井 章
1984年、電通入社。 クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社(シンガポール)赴任時にアジアネットワークの企業内大学を設立。 帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアムを立ち上げる。 2019年4月に独立し、(株)クリエイティブ・ジャーニー設立。アルムナイ研究所をはじめ、さまざまな“越境”の取り組みに携わっている。
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