EQコラム#1 ネガティブ感情と仕事の成果:不安を味方にする方法とは

このコーナーでは、仕事や社会生活において個人のポテンシャルを最大限に発揮するための感情との向き合い方について、Japan EQデータの分析結果をもとに提言を行うことを目的としています。今回は、「ネガティブ感情と仕事の成果」について考えてみます。

不安を感じやすい私たち
みなさんは、仕事を通じてどのような感情を経験することが多いですか?
ワクワク感や誇り、自信や挑戦など、明るく前向きな気持ちでしょうか。あるいは、焦りやイライラ、怒りや不安など、陰湿で否定的な気持ちでしょうか。

筆者である私は、完璧主義の心配性。
毎日焦りや不安に駆られ、自身の気持ちを落ち着かせるように言い聞かせてばかりいます。「なんとかなるさ」と魔法の呪文を唱えたり、「ポジティブ変換(状況の捉え直し)」を試みたり、常に前向きになる方法を模索しています。

これには、共感を覚える人々も多いのではないでしょうか。
脳科学の研究によると、我々日本人は、世界で最も不安を感じやすい民族だと言われています。その根拠として、不安を鎮めて楽観性を促す「セロトニン」と呼ばれる神経伝達物質が、遺伝子的に不足しやすい傾向にある点が挙げられます。

なんと、不安を感じやすいタイプは全体の65%以上を占め、逆に楽観的なタイプはわずか3%しか存在しないという不安勢一強な我が国(残りの32%はその中間)。物事を前向きに捉えることが苦手なのか、その世界的な幸福度の低さや働く人のうつ病の多さなど、何かと不名誉な称号を得ていることは、厳然たる事実です。

不安を原動力とする戦略
一方、不安(ネガティブ感情)とは果たして悪なのでしょうか?

心理学者のジュリー・K・ノレム氏は、著書「The Positive Power of Negative Thinking(邦訳:ネガティブだからうまくいった)」の中で、不安を味方にする“自己防衛的悲観主義者”の戦略についてまとめています。

そこでは、不安を原動力として、あらゆる未来のリスクに徹底的に備えた結果、より良い成果を生み出す人物の特性が描かれています。その人物らは、常に最悪のシナリオを予想し、物事がどのように転んでも良いように万全な準備をすることで、「何があっても大丈夫」と自信を獲得していきます。

その一連のストーリーは、 “不安感情を前向きに転換する力”について言及していると理解され、不安エリートである我々に勇気を与えてくれる提言だと考えます。そこで今回、更に皆さんの背中を押すべく、EQデータからも理論の裏付けを図ってみたいと思います。

失敗からの挽回を邪魔する不安感情
ここでは、仕事の成果の1つして「失敗を挽回すること」について取り扱うことにします。これにより、不安を抱きやすい人々が、いかに“失敗”という最大のネガティブイベントに向き合っているかが抽出でき、不安に打ち勝つヒントが得られると考えます。

また、ここでいう不安とは、物事が上手く進まないのではないかと心配になったり、その心配によって集中力が欠けたりする特徴を数値化したものを指します。

まず、不安が高い人と、不安が低い人を群分けして比較をしてみました。




すると、不安が高い人は、不安が低い人よりも、これまでの経験において「失敗を挽回してきた」という自己認識をあまり持っていないことが分かりました。これは、不安の高さが、物事を前向きに乗り越えていく力を抑圧している様子を表しているのではないでしょうか。

素直さで不安を味方にする
一方、ここに「周囲の意見に対する素直さ」の軸を加えてみるとどうでしょうか。
「周囲に意見に対する素直さ」とは、周りからの指摘を素直に聞き入れたり、その指摘に対して自身を改善したりする態度を意味します。

結果として、不安の高い人は「周囲の意見に対する素直さ」があればあるほど、より「失敗を挽回してきた」という自己認識が高まっていることが分かりました(グラフ内矢印参照)。また、その水準の高さは、不安の低い人が、周囲に対して耳を貸さずに自己流で失敗を乗り越えてきた感覚と、同程度であることが示されています(グラフ内赤字参照)。




このことから、仮に不安を感じやすく、物事を楽観的に進めていく活力が乏しくとも、周囲に対して心を開き、自身の改善に努める人は、失敗を前向きに挽回していく可能性があると言えるでしょう。これは、先のノレム氏による、「不安感情を前向きに転換する力」の一例とも考えられ、不安だからこそ、周囲に改善点を積極的に問う姿勢の現れかもしれません。

自分に合う手段を選択する
同時に、最も失敗の挽回を得意とするのは、不安が低く、かつ素直さも持ちあわせている人々だという点も示されています(グラフ内スコア:4.59)。

このことから、不安を持たないようにすることこそが有効な手段だと考えられるかもしれませんが、ノレム氏はまた、自己防衛的悲観主義者における前向きな気分はマヤカシに過ぎず、パフォーマンスを低下させるとした研究結果も示しています。

大切なのは、自分自身の感情特性を理解し、その特性に適った思考性を選択することだと言えるのではないでしょうか。

今回は、不安との上手な付き合い方として、素直さの有効性について検証しました。これにより、今日という一日を感情豊かに生きる勇気が与えられたのならば、嬉しく思います。


参考:
Esau, Luke, et al.(2008) The 5-HTTLPR polymorphism in South African healthy populations: a global comparison. Journal of Neural Transmission.
Murakami, Fumiyo, et al.(1999) Anxiety traits associated with a polymorphism in the serotonin transporter gene regulatory region in the Japanese. Journal of human genetics.
Julie K. Norem(2008). The Negative Power of Positive Thinking. Basic Books. (ジェリー・K・ノレム 末宗みどり(訳) 西村浩(監) (2002). ネガティブだからうまくいく ダイヤモンド社)
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EQラボ 研究員
EQデータを活用して、感情と行動の研究を行っています。研究成果やコラムなど、みなさんに有益な情報発信ができるように頑張ります!
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