シリーズ「EQは、”デザイン”を進化させることができるか」第1回 EQというメガネで「デザイナーの心の中」を覗いてみた

環境変化の速度がますます増しているいま、デザインやデザイン思考への関心が改めて高まっています。しかし、デザインという仕事やデザイナーという仕事についている人たちについての理解が広がっているとは言えません。一方、デザインの在り方そのものにもイノベーションが求められています。その可能性を探る連載を開始します。
第1回は、EQカレッジのブランディングに携わって頂いている株式会社レベルフォーデザインの皆さんにEQを受検頂き、その結果を見ながら同社の清水啓介社長と、ジャパンラーニングEQ講師・中川善之が対談を行いました。「デザイナーの心や感情の動きとは」について知ることができるだけではなく、クリエイターと非クリエイターが協業する意味、あるいはこれからの職場の在り方や職場のコミュニケーションについての示唆に富む内容となりました。(聞き手:酒井 章)
話し手のご紹介

  株式会社レベルフォーデザイン 代表取締役
  清水 啓介(しみずけいすけ)さん
話し手のご紹介

  ジャパンラーニング株式会社 執行役員 EQ講師
  中川 善之(なかがわよしゆき)
中川さん、まず、今回レベルフォーデザインの皆さんのEQ受検結果からの見立てをお話し頂けますか?
中川:レベルフォーデザイン様全員のEQ結果を、キャリアによる属性でまとめさせていただきました。左側のグラフが、「ある程度キャリアのある中堅以上のデザイナー」の平均グラフで、右側が「まだキャリアの浅い若手デザイナー」の平均グラフです。



キャリアのあるデザイナーの特徴としては、「心内知性」(図内オレンジ)つまり自分軸と呼ばれる自分に向けた行動、モチベーション、ストレス耐性、そしてこれから先自分をどうしていきたいかというビジョンのスコアに高めの傾向値が出ていました。
一方、低い傾向値が出たのは、相手軸と呼べる「対人知性」(図内グリーン)つまり気持ちを相手に向けたり、相手を尊重したり、しっかりと相手に対応しながら話を聴いたり、自分の意見を述べたりという言葉のキャッチボールや、周りで起こる人間関係の問題に対する行動といった部分でした。 特に低い行動特性は、人の話を最後まで聴いたり、相手が話しやすいという雰囲気を作ってあげたりする「傾聴力」でした。自分ひとりで完結できるような仕事の環境にある方に多く見受けられる傾向です。

対して、比較的キャリアが浅いデザイナーの特徴ですが、相手を気にかける、理解する、共感するといった受信側の「対人知性」(対人受信、対人理解、共感力)のスコアは比較的高めに出ました。これは、クライアントや上司など周囲の意向に意識が向けられているという点で、ポジティブだといえます。
反面、仕事に不慣れであったり、締め切りに追われていたりといった状況から「心内知性」つまり自分軸のスコア全般、特に抑うつ性や不安耐性、ストレスコントロールの数値が低くなる傾向が見られました。
清水さん、今のお話を聞かれていかがでしょうか?
清水:はい。まずは「ズバリ言い当てられている」と感じました。
キャリアのあるメンバーが「心内知性が高く、対人知性(コミュニケーション)が比較的弱め」というところは、元々絵を描くことが得意な人間が集まっているので、やはり比較的似てくるのだろうなと思います。
我々デザイナーがお客様にヒヤリングをする時、抽象的なイメージで聞き取ることも多いと思うんです。はっきり「こういうものを作ってください」と言われると、逆に想像力が働かなくなる傾向にあるんですね。なので、聞き方が他業種のビジネスパーソンと、もしかしたら違うのかなとも感じました。とはいえ、傾聴力はすごく大切だと思います。

傾聴力とは、カウンセリング的に表現すると「言われていること」ではなくて「言わんとすること」つまり一歩突っ込んで聴くということですが、デザイナーの皆さんはおそらく頭の中が忙しく、イメージをカタチにしようといつも考えている分、相手の言わんとすることを聴くという能力が弱くなっているかもしれないですね。
清水:言葉からだけでなく、相手の企業さんの建物に入った時、何が飾られていて、担当者がどういう服装をしてといったところから読み取りながら、アイデアや考えのヒントにしていくということもあります。コミュニケーションを言葉だけに頼っていないんですね。

中川さん、デザイナーの皆さんと似たような傾向の業種があるのでしょうか?
中川:個人がクリエイティビティを発揮すべき仕事、例えば建築設計士やゲームクリエイターなどに同様の傾向がありますね。複数メンバーやプロジェクトでの共同作業によって成果を出すという職種の方々と比較すると、個人の力量やセンスの比重が高い業種の方たちに近く、そういう方ほど、周りからとやかく言われることを嫌います。
自分がワークしている最中は心理的なストレスが少ない一方で、何らかのトラブルやアクシデントがあったときにネガティブな感情をうまくコントロールすることができない、という方々をたくさん見てきました。

EQ診断の中の心内知性と対人知性は、どちらかが高くなったらどちらかが低くなるような傾向があったりするのでしょうか?
中川:自身の置かれた状況に合わせて、意識的にバランスをとろうとする傾向は、あるといえます。例えばメンタル面を見ると、抑うつ性や不安耐性、ストレスコントロールが高い方ほど、周囲のメンバーに対する対人知性は、意図的に低く抑えているケースが多い。周囲のことよりも「自分軸」に重きを置いているからです。
100人の部下を持つ大企業の部長さんは、毎日の部下たちからのさまざまな相談事、問題に対していちいち対人理解力を発揮できないですよね。ある程度のところでうまく受け流すことも重要になる。あえて対人受信や対人理解といった行動をコントロールしながら、自分のビジネスを進めているという話をよく聞きます。
反対に、対人知性のスコアが高く、心内知性が低い方は、自分よりも周囲を気にしすぎてしまうので、これはこれで疲れてしまいます。彼らが「こんなにやっているのに誰も見てくれていない」という感覚になってしまうことが一番良くなくて、周囲からの「君のおかげで上手くいっているよ」といった声掛けが対人スコアの安定と、心内スコアの向上に効いてきます。




清水さんからご覧になって、グラフィックデザイナーの特性、強みや課題について、どのように読み取られますか?
清水:はい、対人知性ってコミュニケーション力が高い低いだけではなく、いろいろなところと相互作用があるんだな、と感じました。 我々は、みんなでアイデアを出し合って議論することなどは必要ですが、最終的な作業は一人ひとりが黙々とやっていく自己完結型の仕事が多いので、それがズバリ当てられているなと思います。
会社として、職場の自由度は高くしようと努めているんです。時間を決めないとか、始業・終業の時間もフリーですし、極力いろいろな制約がない環境で自由に想像力を磨いて欲しい、いろいろなタイプの人間がいるので自分がベストな状態での仕事ができるようにしてもらいたいなと思っています。そういうところもスコアに出るのかなと思いました。

中川:デザイナーの個性や期待値に応じて自由度を高めるのは良い事ですね。加えて、もう少し顧客の要望を深堀ったり、顧客に新たな気付きを与えるようなよい質問をする、といったことを、今後できるように指導していくのが良いと思います。それによって、インタビューがうまくて「自分たちが気づかない部分までサポートしてもらえた」と顧客が驚くような、他のデザイン会社との差別化にもつながるのではないでしょうか。
UXの世界だと、まず顧客のニーズを聴く手法を身に付けますね。なので、インタビュー技術やヒヤリングの技術が、今後グラフィックデザイナーの皆さんにとっても必須になって行くでしょうね。中川さん。例えばレベルフォーデザインの皆さんにEQ研修をやるとしたらどんなことをやりますか?
中川:アーティストやデザイナーの方々は、やはり自分のデザインにプライド持っている方が多いと思います。
一方で、お客様が置かれた状況、抱える課題は三者三様ですから、デザイン会社と一般企業の違いを理解する必要がありますね。もしレベルフォーデザインさんでEQ研修をやるとしたら、「聴く技術」を、改めて学習していただきたいと思います。
質問を繰り返して深堀りしていくことは非常に難しいことです。というのも、私たちは子供のころから大学を卒業するまで、プレゼンテーションやアウトプットばかりを求められ、「聴く」ということを学ぶ機会がない。だから、言葉のキャッチボールでなくてドッジボールになってしまう、投げ合っているだけになっていることが多いんですね。相手の言葉をしっかりとキャッチして、この人は何を言いたいのだろうかと考えながら質問をする、聴く技術をお伝えしたいと思います。
もう一つ感じたのは、デザイナーの方々って昔から絵が好きで、自分や自分の作品と向き合うのが好きな一方、人と向き合うことはあまり好きじゃないのかもしれない。傾聴の基本とは人に対する好奇心なので、相対する人に対する好奇心を持つことが、まず必要かもしれませんね。
中川:コーチングでも相手に興味・関心を持つことは大前提です。「興味・関心」は目に見えないので理解していただくのは難しい部分ではあると思いますが。

デザイナーが非デザイナーの人たちとコミュニケーションをするにあたって何が必要だと思われますか?
中川:アーティストやデザイナーの皆さんは自分の感性や表現に対して、自負をお持ちですよね。素晴らしいことだと思います。
しかし、時としてクライアントの目的や実現したいことと、自身の感覚が相反することがある。「私たちはプロですから、お任せください!」と押し切れそうな場面でも、トップが最後に出てきて「駄目じゃないかこんなの」と白紙に戻されるかもしれません。
私の知り合いで、200年企業の日本橋の老舗のお菓子屋さんがいらっしゃいます。そこの若社長から聞いた話ですが、黒蜜を使ったアイスクリームの新商品をつくろうと提案した時に、会長から「アイスクリームなんて邪道だ、自分たちは飴屋なんだから」と言われたそうです。
デザイナーの世界に限らず、新しいことをやろうとする取り組みと、社内のポリシーのようなものの対立は、どの世界でも頻繁に発生しますね。

清水:いや、どちらも気持ちはわかりますね。新しいものを生み出すことばかりではなく、さまざまなプロセスや仕事がありますし、それぞれのプロジェクトの規模感もありますよね。我々の仕事でも、パンフレットを作ってください、ロゴを変えてくださいといった具体的な提案の内容が決まらずにご相談頂くケースが増えています。その場合に、傾聴力がすごく重要になってくるのではないかと思います。一歩踏み込んだ質問によって問題の本質を炙り出すこともデザイナーがしっかり身に付けて行かなければいけないんだろうなと思いました。

中川:そういう意味で、クライアントの業界やマーケットについてどれだけ勉強しているのかということが、デザイナーの皆さんにとって今後ますます大事になるでしょうね。例えば海外でのデザインの技術、潮流や市場までリサーチした上で提案をするようなことは、EQで言えば、ノンバーバルスキルや情報収集力のスコアに関連してくる行動です。

このEQ結果を受けて、今後レベルフォーデザインさんでどのように生かしていきたいですか?
清水:全体的に弱い対人知性をどのように強めていくかが課題だと思います。具体的には傾聴力を身に付けて、相手の「言わんとすること」を引き出す技術が必要だと改めて理解したので、学ぶしかないですよね。
「社会的知性」についてはあまり触れられていませんでしたが、キャリアによるのかなと感じています。ある程度のキャリアのあるリーダー職に就いてる人の方が高い傾向にあるなと思ったんですが、いかがですか?

中川:仰る通り、御社のリーダーの皆さんの社会的知性は、ある程度高いと思っています。チームや組織に向けた感情行動、気にして声をかけるとか、行動のアクションを起こすといったことが、EQとして発揮できています。ダイバーシティ、好奇心やチームワークのスコアも、皆さん結構高いですよね。

清水:また、キャリアのある人と若手とでスコアの差が出ていますが、これは今後キャリアを積むことによって変化していくものなのでしょうか。

中川:はい、本人の意識だけでなく、置かれた状況や仕事内容によってもEQは変化します。 昇進をしてメンバーがついてきたとか、2年目になって、新人の面倒を見ることになったとか、役割を自己理解して自分の中に腹落ちすると、行動もEQスコアも変わってきます。もしリーダーやマネージャーになっても、部下がいなかった頃の自分のEQから変化がなかったとすると、会社のミッションがうまく伝わっていなかったり、認識の齟齬(そご)が生じていると考えた方が良いかもしれないですね。

清水さん、改めて結果をご覧になって「デザイナーらしい」と感じる部分はありますか?
清水:偏っているところがある人間もいれば、バランスがいい人間もいたりもするので、一言でデザイナーだからこうというのは言いづらいところもあると感じました。やはり個人個人ですごく個性があるんだなというふうに思いました。

デザイナーにとって自分の感情を理解して行動することにはどういう意味がありますか?あるいはデザイナーにとってEQをどのように生かしていきたいですか?
清水:まず「自分はコミュニケーション力が強いのか?」を知ることができるという点で、EQは非常に効果的だと感じています。そして、課題となっている傾聴力の点では、お客様に接する場面で本質的なところを聞き出して良いものを作るということに繋げたいと思います。そういったことが数値で見えてくるというのはすごくいいですね。
表示された結果がないと、ふわーっとした感じでしかつかみ取れてないので、しっかり見える化されることで「なるほどこういうことなんだな」ということがすごく理解ができました。
また、一つひとつのスコアの高い低いだけではなくて、それぞれが絡み合っているので、その関係性もよく理解ができました。

中川:EQは自分の感情や行動の理解を行った上で、改善すべきところはどこなのか、どういう感情行動をするべきなのかといった分析やそれに基づいた結果が、個人個人で異なります。
一方、社長としては社員の皆さんそれぞれに何を高めて欲しいかという期待があると思います。それを、EQを活用しながら一人ひとりに落とし込んでいけば、社員教育にもなってくると思います。

清水:「スコア表示の形(サイズ)が小さいんです」と気にしているうちのデザイナーもいますが、それはどういうふうに解釈すれば良いですか?

中川:形が小さいということは、自分を厳しく評価しているということです。「あれもできてない、これもできていない」という風に、自分にネガティブな回答をしてしまうと、基準値が下がっていってしまいます。
それらはもちろん、実際に高めるべき行動かもしれないし、周りからすると、そんなに低くないでしょ、というケースも多くある。なので「そんなことないよ、大丈夫だよ、これはよくできているよ!」と励ましてあげるマネジメントがポイントです。本人の自己肯定感や、メンバー間の心理的安全性を高めてあげることでスコアにも変化が生まれます。

清水:普通に話しただけだと、絶対にそこまでわからないですよね。

中川:内面が見えるし、本人の自信がない状態を見ることができます。EQスコアは評価の対象じゃないんだよということを、受検前も受けた後の結果に際しても伝えてあげることで安心して頂けるのではないかなと思います。

清水:EQスコアで「行動が小さい」とはどのような意味なんでしょうか?

中川:たとえば、「自己主張」という行動特性が小さくでている場合、本当は会議で発言したい感情になっているのに、この場でこんなこと言ってはまずいんじゃないかと思って、なかなか発言できない。自分の考えを発信できていない、誰からも意見を求められない、そもそも発信する場がない。そんな状況が「行動を小さく」しています。自分の気持ちの切り替えができているうちはまだいいのですが、もともと自己主張スコアが高かったメンバーが、段々下がっている時は要注意ですね。

清水:そういうサインがわかるって良いことですよね

中川:組織の中でEQが評価される要因の一つとして、テレワークで直接会ったり、話す機会が減っていることが挙げられます。定期的にお互いのスコアの変化を見ながら、一人ひとりに対して注意深く対応していくことができますね。

このディスカッションを通じて、改めて感じていらっしゃることはありますか?
清水:なんとなくわかっていた各個人の特徴、特性の違いが、きちんと数値化されて目に見えるというのが素晴らしく、個人個人を理解する上での自信になりましたし、そもそもの傾聴力などの知識の必要性も改めて認識しました。
変わっていくスコアが見えるとその成長の実感にも繋がると思うので、評価には繋がるものではないという認識でやらないといけないですね。

中川:5年ぐらい前に、広島県内のIT企業人材向けにEQを使ったプロジェクトマネジメント研修をやりました。そのときに、平均スコアがとても低い方がいたんです。ちょっと不健康そうな雰囲気で、周囲の人とも全然喋らない。でも、よく聞いたら特許をいくつも持っているスーパー技術屋さんだったんです。その方は最初「私のEQはもう変わりませんから」って言っていたんですが、グループワークの時に、他のメンバーから「もっと周囲とコミュニケーションを取ったら、いろいろな気づきが自分の中に生まれるし、もっと仕事が楽しくなるんじゃないか。せっかくよい仕事をしているのに、このEQ結果は勿体ないよ」と言われたことが、どうやら本人の意識の変化につながったらしいんですね。
すると、半年後に再びEQを測定した際には、数値が格段に高くなっていたんです。会った瞬間に、ニコニコしながらお久しぶりです!と挨拶してきた彼は、体型まで変わっていました。前回の研修で、自分は変わろうと思い、変わるために不健康な状態を変えようと考えたそうです。 グループワークのメンバーから「勿体ない」と言われたことがよほど響いたんですね。

清水:そんな風に行動に繋がって変わっていく為には、どういう風にしたらいいんでしょうか?

中川:まずは今の自分の状態を知ることからです。つまり、自分のEQの結果がどういう背景で生まれたのかに対して、本人が腑に落ちることが大切です。
実はEQへの理解が増すのは2回目の受検以降なんです。変化することによって、EQのそれぞれの項目への理解がずっと深まるんですね。ですから最低でも2回は受けてほしい。そして次回に向けてどうしようか、自分に対してどうしようか、相手に対してどうしようか、少しずつ自分の中で変化が生まれてくる。
そしてEQの行動特性同志は繋がっていますので、あるEQが高まると、他のEQも高まってくる。中でも一番大きな変化を生み出すのは「自信力」です。 そういった事例は多くあります。高すぎるEQを抑えるということもあります。EQの中で、「感情表現」が一番高いという方は、感情を出し過ぎているということなので、出し過ぎている状態を抑えることによって他のEQが上がってくるようなことがあります。
清水:改めて、ありがとうございます。この結果からの学びを早速、実践して行きたいと思います。


対談を終えて
EQ受検を通じて明らかになった、デザイナーがより進化するためのヒントは「聴く力」でした。次回は、この課題に対応してレベルフォーデザインで実施された研修と、そこからの学びをレポートします。

―次回「EQは、”デザイン”を進化させることができるか」②に続く
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