シリーズ「実践者」に聞く
「言葉を超えて、心をつなぐ」—— 外国人実習生と企業を支えるEQコーチングの力 -TSトラスト
会社や組織でどのようにEQが導入・活用されているのか。その実践事例をご紹介する本連載。
今回は、海外からの技能実習生にEQを活用したコーチングを導入し、実習生と企業の双方が安心して関われる環境づくりに挑んでいる株式会社TSトラストの牧野新治さんと佐藤早枝子さんにインタビューをさせていただきました。
話し手のご紹介

株式会社TSトラスト
牧野 新治(まきの しんじ)さん
話し手のご紹介

株式会社TSトラスト
佐藤 早枝子(さとう さえこ)さん
牧野:技能実習生や特定技能人材の受け入れが拡大するなか、日本語や文化の壁に悩む彼らをどう支えるかが課題です。
私たちは、企業に対してEQ(感情知能)を活用したコーチングを行い、実習生の感情を見える化し、企業との相互理解を深めることを目指しています。
これにより、実習生は安心して力を発揮でき、企業は適切なサポートや関係づくりが可能になると考えています。
牧野:農林水産省が主催する特定技能外国人向けの講習会に参加したときに、言葉の壁で「気持ちが伝わらない」という課題を強く感じました。そこでEQを使えば感情を数値化して読み取り、企業へフィードバックできる。結果的に就労環境も改善され、定着率も上がると考えたのです。
EQ自体は日本企業で30年ほど前から使われていますが、外国人実習生に取り入れる取り組みはほとんどありませんでした。そこに可能性を感じて佐藤と事業をスタートしました。
私たちが目指しているのは、単なる「メンタルケア」ではなく、実習生が安心して力を発揮できる職場環境を整え、企業と外国人の間に信頼関係を築くことです。
結果として、離職やミスマッチを減らし、両者が“長く、気持ちよく働ける関係”をつくることが最大の狙いです。
佐藤:牧野が前職で外国人技能実習生の人事を担当していたとき「この子たちにできることは何か」と考え、EQに行き着いたのが始まりです。その思いに私も共感し、一緒に事業を立ち上げました。昨年スタートしたばかりですが、日本の未来に不可欠な取り組みだと確信しています。
牧野:インドネシアからの実習生を中心に、入国直後をはじめ3か月ごとに継続的にEQテストを受けてもらい、コーチングを行っています。
数値の分析やフィードバックは私が担当し、企業に報告しています。現在は1期生から3期生までが進行中で、1回につき15名ほどを対象にしています。
今後は、入国前の面接の段階からEQを実施し、来日前から心の状態や特性を把握しておくことを考えています。
そうすることで、企業側は受け入れ準備をより丁寧に行えるようになり、実習生も自分の強みや課題を理解したうえで安心して日本での生活を始められると考えています。

牧野:実習生本人にEQを深く理解してもらうことはまだ難しい部分もありますが、EQを活用した面談は「安心して話せる場」として機能しています。
特に、第三者である私が入ることで、実習生が率直に気持ちを話してくれるようになります。これは日本人社員にも共通していて、社内の人間関係から少し離れた外部の存在だからこそ、本音を引き出せるのだと思います。
また、この取り組みは受け入れ企業の方々にも高く評価されています。
実習生の心のケアが職場の安定につながることを実感していただき、最近では「企業側にもEQコーチングを導入したい」という声が上がるようになってきました。
EQを通して、実習生と企業の双方が成長できる関係づくりが少しずつ形になってきています。

牧野:新しい取り組みをどんどん増やすというより、今やっていることを着実に広げていきたいですね。外国人労働者は今後ますます増えますから、「日本に来てよかった」と思ってもらえる環境を整えたいです。
佐藤:私は以前から「外国人を受け入れるなら、ただ働いてもらうだけではいけない」と考えていました。実習生が安心して働き、「日本に来てよかった」と思える経験をすることが大切です。その姿勢を理解してくださる企業は、やはり実習生を“人”として大切にしている。そういう企業と一緒にこの事業に取り組んでいきたいと思っています。
さらに言えば、実習生の子たちには帰国後も幸せになってもらいたい。日本で働いた経験が現地での安定した生活につながるよう、日系企業への就職など、長期的な仕組みづくりも考えています。国によっては、技能を学んで帰国しても活かせない現状がまだあるので、そこを変えていきたいですね。
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