EQ COLLEGEコラム⑨
越境×感情

前回のコラム(多様性×感情)では、多様性を経験すると自分の中に多様な価値観(イントラ・パーソナルダイバーシティ)が生まれるメリットがあることを述べて締めくくった。だが、繰り返すようだが「多様性」は面倒くさい。そこで、注目を浴びているのが「越境学習」だ。

前回コラム 多様性×感情

越境学習とは「所属している組織や環境を離れて、異なる環境で学ぶこと」と定義され、これまで何度かブームになって来た。

第1次越境ブーム(越境1.0)は、2010年代前半。終身雇用制度に翳(かげ)りが見え始め、東日本大震災等による閉塞的な状況を打破しようという機運の中、従来の企業内の学びでは限界を感じた人たちがアクションを起こしたことから始まった。だが、この時点では、NPO法人等による一部の先端的な取り組みに限られていた。

第2次ブーム(越境2.0)は、2010年代後半。第2次安倍政権が推進する働き方改革の一環で、政府主導のもと広がりを見せることになった。

そして現在は第3次ブーム(越境3.0)が起こっている。しかし、様相はこれまでの2回とは異なる。新型コロナの感染拡大によって、リモートワークの浸透など働き方やキャリアを取り巻く状況は一変した。待ったなしのグローバル化やデジタル化を推進するため、企業には多様性が否が応でも急速に広がりつつある。もはや、ひとつの企業ではこの状況を打破するイノベーションが生まれない。ひとつの企業や組織の枠を越えて、あるいは企業・行政・学術のセクターを越えた共創が業種業態を問わず求められている。

つまり、いま求められている越境学習の背景には企業の切実な危機感があり、個人ベースではなく企業同士の切磋琢磨の場=“他流試合”という表現もされるようになっている。

ある大学が提供する越境学習のプログラムでは、異なる業種業態の企業・組織から参加する社会人がグループワークを行うが、学んだことを試してみる機会が2度に渡って提供される。このプログラムの巧妙なところは、最初のグループではあえて相性の悪そうな人同士を組ませることだ。それによって衝突や軋轢が起こる。しかし、2回目のグループワークに際して、受講者は「なぜ、そのような衝突や軋轢が起こったのだろう?」「なぜ、あんなに感情がザワついたのだろう?」と考えるようになる。

これは「ダブルループ学習」と言って、既存の枠組みや考え方にとらわれず、新しい行動や考え方を取り入れる学習プロセスである。つまり、越境学習には、既存の枠組みから飛び出すことで、意図的に感情をザワつかせ、自分の中の既存の枠組みを組み直し(リフレーミング)客観的に自分を見つめ直すことでイントラパーソナル・ダイバーシティ(内なる多様性)を身に付ける効果があるのだ。

次回は、この越境学習が効果を発揮する舞台となる「地域」について述べてみたい。

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ジャパンラーニング執行役員 キャリアコーチ教育担当 酒井 章
1984年、電通入社。 クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社(シンガポール)赴任時にアジアネットワークの企業内大学を設立。 帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアムを立ち上げる。 2019年4月に独立し、(株)クリエイティブ・ジャーニー設立。アルムナイ研究所をはじめ、さまざまな“越境”の取り組みに携わっている。
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