EQコラム#2 褒めるは他人のためならず:職務満足感の向上に繋がる褒めワークの有用性

このコーナーでは、仕事や社会生活における個人のポテンシャルを最大限に発揮するための感情との向き合い方について、ジャパン・ラーニングが独自に解析したデータ分析結果をもとに提言を行うことを目的としています。今回は、東京成徳大学との共同研究として「褒め手が得る効果」に着目した、フィールド実験の試みを紹介します。

人を褒めるとどう良いの?
みなさんは普段、人から褒められた時にどのような感情を抱きますか?
「嬉しい」「気分が良い」「モチベーションが上がる」「自信に繋がる」など、きっと誰しもが、褒められることの気持ちの良さを経験したことがあると思います。

では、褒めている時はどうでしょうか。
今回のフィールド実験は、「褒め手」に着目してその効果を明らかにしました。

結果として、以下の2点が分かりました。

1. 人の良いところに目を向ける意識を高さは、自身の職務満足感の高さに関連すること
2. 人の良いところに目を向ける意識の高さは、トレーニングによる強化ができること

この結果は、「褒め行動」を1つの社会的なスキルとして身に付けることの有効性と、その手段としてのトレーニングの有用性を示していると考えます。
早速、中身を見ていきましょう!
褒め手に着目したフィールド実験の方法
今回のフィールド実験は「褒め上手になるためのワーク」を受けている群(褒めワークあり群:10名)と、受けていない群(褒めワークなし群:10名)を比較することで検証しました。

「褒め上手になるためのワーク」とは、オンライン研修における15分間のワークショップと、研修終了後から隔日就業日にメールで送付されるホームワークを、合計6回受講することをセットとしたプログラムです。

また、BeforeとAfterの状態を比較検証するために、2時点において質問紙調査を実施しました。なお、対象者はそれぞれ、ジャパン・ラーニングが提供する管理職向けコーチングプログラムの受講者であり、褒めワークなし群も「コーチング研修」は受けている状態にありました。



ワークショップでは、「褒め」に係る基礎知識を親しみやすいデザインでリーフレットにして配布し、内容を口頭で説明しました。



ホームワークでは、ワークショップで説明した「言い換え力」と「観察力」を強化するための課題を、アンケートフォームを用いてメールで送付して回答できるようにしました。




「褒め上手になるためのワーク」は褒め意識の向上に有効
結果です。まず、「褒め上手になるためのワーク」は、人の良いところに目を向ける意識を高めることが分かりました。また、その意識の高さは、人の良いところを発見する動機の高低に関わらないことが分かりました。

本来、人の行動の裏には「動機」や「目的」が必ず存在しており、人の良いところに目を向けるのは、その行動(目を向けること)に対する “必要性”や“重要性”を感じているからだとしたメカニズムが想定されます。




向かって左側の棒グラフは、「褒めワークなし群」においてヒト本来のメカニズムを実証しています。動機が高いときは、人の良いところにより目が向いており(スコア:4.25)、動機が低いときは、人の良いところにあまり目が向いていない(スコア:2.13)ことが示されています。

一方、向かって右側の棒グラフは、「褒めワークあり群」において「動機の高低に関わらず、人の良いところに目が向いている様子」を示しています。具体的には、動機が高いとき(スコア:4.00)と動機が低いとき(スコア:3.81)でスコアに差異がないことが示されています。

これは、ワークショップやホームワークなどの「褒め機会」が外発的に与えられたことによる効果を表しており、トレーニングを用いて褒め意識を強化することの有用性が示唆されます。

「褒め意識」が高まると「職務満足感」を高める
また、人の良いところに目を向ける意識を高めることは、「職務満足感」の向上にも効果があることがわかりました。

これは、2時点データを用いた因果推論の結果として示されており、職務満足感が高いから、人の良いところに目が向いている(例:自身の心が十分に満たされているから、誰かの良い面に目を向ける余裕がある)とした逆因果の可能性は否定されました。

ではなぜ、人の良いところに目を向けると、職務満足感が高まるとした因果関係が成立するのでしょうか。このプロセスには、「自分の職場は素敵な仲間に溢れている」との実感が介在しているのかもしれません。あるいは、仲間の強みを把握することで、チームワークの取りやすさが影響しているのかもしれません。


今回の検証では、「なぜ人の良いところに目を向けたら、職務満足感が高まるのか?」という観点での分析は行なっていないため、今後の展望として更なる検証が期待されます。

検証結果を支える自動車学校の実践例
ここで紹介したいのは、2020年に第7回GOOD ACTIONアワード(リクナビ)を受賞した「大東自動車株式会社 三重県南部自動車学校」の“ほめちぎる教習所”の取り組みです。

https://next.rikunabi.com/goodaction/archive/2020/02/index.html

三重県南部自動車学校では、従来の「教習所」に対する厳しい指導イメージを払拭するために、生徒の長所を褒める(ほめちぎる)サービス方針を取り入れました。その結果、新規入校者数の増加や卒業生の事故率の低下(1.76%→0.43%)など、あらゆるポジティブな成果を生みました。

中でも面白いは、「ほめちぎる教習の実施は、従業員の表情も変えた」とした結果です。記事では、“ほめられる側よりも『ほめる側』のほうが良い表情をしている”とした気づきに触れ、明るい職場風土に変わっていったことを振り返っています。

また、「褒めの実践」の本質は“職場の仲間に関心を持つこと”であるとし、相手を褒める練習を続けることで、その心構えが自然と磨かれていったことを考察しています。これは、今回のフィールド実験の結果を支持する実践例と言え、褒めワークの有用性が後押しされます。

おわりに
今回の検証は、「褒め行動」を1つの社会的なスキルとして身に付けることの有効性と、その手段としてのトレーニングの有用性を明らかにしました。

脳科学の領域では、感謝の気持ちを口に出すことで「オキシトシン(幸せホルモン)」の分泌を活発にするとした効果が明らかにされています。オキシトシンは、自律神経のバランスを整えたり、ストレス緩和・免疫力アップなどの健康上の良い効果をもたらしたりするだけでなく、記憶力の向上にも役立つと言われています。

まさに、褒めるは他人のためならず。今日1日を、誰かに褒めてもらうためではなく、誰かを褒めるために生きる勇気が与えられたのならば、嬉しく思います。

参考:
Komazawa,A. & Ishimura,I.(2016) Strengthspotting and Interpersonal Relationships: Development of the Japanese Version of the Strengthspotting Scale. GSTF Journal of Psychology (JPsych) 2(2)pp29-3
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