【研究者に聞く】「褒めるは他人のためならず」研究・実験後記

昨今、Work EngagementやWell-Beingといった概念が注目され、働く人々の「幸せ」を追求する企業が増えています。従業員個々人の「強み」を活かしたり、「感謝」や「褒め」といった相互作用を活用したり、いかにポジティブな感情を生み出すかについて、人事部を中心とした試行錯誤が重ねられています。こうした背景を踏まえ、ジャパンラーニングでは、東京成徳大学との共同研究として「褒め手が得る効果」に着目したフィールド実験を行いました。前回、その内容についてレポートしましたが、今回は、本研究を卒業研究として取り組まれた香取さんにお話を聞きました。
話し手のご紹介

 東京成徳大学
 健康・スポーツ心理学科 4年
 香取 由奈(かとり ゆな)さん

聞き手のご紹介

 ジャパンラーニング株式会社
 EQラボ 主任研究員
 後藤 凜子(ごとう りんこ)

後藤:はじめに、香取さんの所属を教えてください。
香取:東京成徳大学 応用心理学部 健康スポーツ・心理学科の4年生です。「感情労働」を専門とする、関谷大輝先生の研究室に所属しております。

後藤:健康スポーツ・心理学科を選択した背景があれば、教えてください。
香取:小さい頃から、バドミントンとクラシックバレエを習っており、体を動かすことが好きでした。その中で、「強いと上手いは違う」という教訓を受け、どれだけスキルを磨いても、メンタルの状態によって勝敗が左右されることを実感してきました。こうした経験から、「スポーツ」と「心理」が並列した当学科の名称にピンときて、進学を希望しました。

後藤:大学でも部活やサークルで「スポーツ」に打ち込みましたか?
香取:いえ、高校までの活動で、燃え尽きたというのが正直なところです。また、ちょうど大学入学時がコロナの全盛期だったので、入学式もなければサークル活動もなく、特段学内でスポーツをする機会を得ないまま卒業のタイミングを迎えました。

後藤:では、大学時代で最も打ち込んだ活動について教えてください。
香取:一番注力したのは、今回の研究に関わる「学会発表」ですね。実験の実施期間から発表当日までのリードタイムが短く、慣れないデータ分析からポスター作成まで、本当に大変でした。


後藤:とてもデザイン性の高いポスターですね!学会発表当日はどのような様子でしたか?
香取:幸いにも多くの方に関心を持っていただき、フロアからの質問が止みませんでした。タイトルも馴染みやすいですし、発表ブースも会場に入って直ぐの位置だったので、皆さんの注目を浴びやすかったと思います。

後藤:では改めて、今回の研究の要旨を教えてください。
香取:今回の研究は、褒めの中でも「褒め手(褒める側)」に焦点を当てて行いました。従来の研究は、褒められる側が得る効果に着目したものばかりで、褒め手に対する知見が不足していました。結果として、褒めは、褒める側にもメリットがあることが明らかになりました。

後藤:褒める側が得るメリットとは、どのような内容ですか?
香取:具体的には、褒め能力向上ワークを実施すると、他者の強みを見つける頻度が増えていて、仮に「他者の強みを見つけたい!」と思っていなくとも、他者の強みを見つける頻度を増やせば、職務肯定感は上がるという結果が示されました。

後藤:中でも、面白いと思うポイントはどこですか?
香取:職務肯定感を高める上で、内発的な動機は不要だという点です。やや乱暴にまとめると、褒める機会さえ増やせば、職務肯定感は上がるというメッセージだと受け止められます。これは、何から着手すれば良いのか悩ましい企業において、“まずは行動強化から”と背中の押される研究結果だと思います。



後藤:確かに、強制力のある施策の有効性が支持されますね。逆に、課題はありますか?
香取:はい。実際に、「褒め能力向上ワーク」を実施していない統制群においては、「他者の強みを見つけたい」という動機の高さと、他者の強みを見つける頻度が相関していました。自然な状態というのは、動機に基づいた行動であるという点は確かな事実だと思います。

後藤:では、動機に基づく安定的な効果を生むには、どうしたら良いでしょうか。
香取:“メリットに対する実感を生むこと”が大切だと思います。褒め行動を増やしたことによって、職務肯定感が上がったということを自覚する瞬間があると、再び褒め行動が促進される可能性が高いと考えられます。例えば、今回の結果を被験者の皆さんにフィードバックしてみるのも、1つの方法かもしれません。

後藤:ワークの内容も重要だと思いますが、これはどのように設計しましたか?
香取:実は、「褒め能力向上ワーク」に関しては先行研究がほとんどなく、オリジナルで作成しました。それでも効果が得られたという点は、1つの有益な知見と言えそうです。もし、企業で取り組むならば、社内で褒め上手な人にインタビューをして、そこから得られるエッセンスを元にワークの内容を発展させるのも有りですね。

後藤:褒め上手な人への着目は、示唆に富んでいそうですね。
香取:例えば、アンミカさんの「白って200色あんねん」は有名な発言ですよね(笑) テレビ番組で、目の前にある白いコップを褒めるように促された時のコメントですよね。確かに、褒め上手の典型例と言えそうですね。ちなみに、その後の番組で、「黒はどうか」と尋ねられ、「黒って300色あんねん」と上回るコメントをしていました(笑)

後藤:流石ですね(笑)ところ最近、香取さんご自身は褒められたことがありますか?
香取:実は、卒業論文の口頭発表会で「最優秀発表賞」を受賞しました!これは、先生方の評価点によって決まるのですが、当研究のみが満点だったそうです。改めて研究にご協力くださった研究協力者の皆さん、ジャパンラーニングの皆さん、また、熱心に指導してくださった関谷先生への感謝の気持ちでいっぱいです。

後藤:有終の美を飾りましたね!最後に、この研究を通じて、今後の社会人生活に活かしたいことを教えてください!
香取:実のところ、私は褒めることがあまり得意なタイプではありません。一方、今回の研究結果は、褒めることによって得られるメリットについて教えてくれました。私も誰かを褒めて、誰かに褒められて、楽しく仕事をしていきたいなと思います!

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EQラボ 研究員
EQデータを活用して、感情と行動の研究を行っています。研究成果やコラムなど、みなさんに有益な情報発信ができるように頑張ります!
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